NASAを秘密結社にしないための活動

あんまこういうこと書くなよみたいに言われそうなんだけど、とりあえず間違いは正しておかないと、彼らが最初共産主義者を攻撃したときみたいに、とか、インターステラーみたいになっても嫌なので…

最近この人が結構スパコンとケーザイとヘリマネと陰謀論を絡めてあれこれと言っているが、この人の言及している技術論については100%間違ってると言い切れるし妄想以上のものはないので、相手にすんなよという説のほうが九割を締める中、こうしてわざわざブログを書いている。
この人の論調としては次のようなもので

…とまぁ、「ポスト京のCPUにARMのISAを採用したから、すなわちその心臓部をARM(ソフトバンク)が抑えることになり、それはいずれ転売されるだろう。日本の(税金を費やして)開発した技術の流出!」というものが大筋のようである。

わりとちゃんちゃら可笑しいというか、まぁなんというか、わからないなら触らなきゃいいのに…という気持ちでいっぱいである。すでに一度バトってボコって、この人は自分のツイートからPEZYとつくツイートを全て削除したのにもかかわらず、まーーーたこうして出てきた訳で、なんというか暇なのかな…いやそれは俺も大概か…という気持ちにならないでもない。

まぁ、そもそもこのツイート、だいぶ日本語がアレなので何を言いたいのかさっぱりわからないのだが、うーん、なんていうか、まぁわかった気持ちになって先に進もう。
しかし(この人に限ったことではないが)、スパコンがいくら汎用機の集合体だからといって、こういうことを言えてしまうあたりは、インターネットの功罪というものについて意識を巡らせないでもない。ついでにSVEって単語を使い始めるようになったのは俺の言及以降であることを書き添えておきたい。

スパコンは一般的に使うPCの集合体である。構成要素としてはCPU、メモリ、ストレージ、ネットワーク、ついでにアクセラレータも入れてもいいだろう。確かにその根底、演算性能を支えているのはCPUだが、じゃあIntelのCPUを並べて大量に動かせばそのままスパコンとして使えるのか、というのであれば、名だたるスパコンベンダーというものはもうとっくに廃業している。
Cray, IBM, SGI, HPE...スパコンベンダーは他にもいくつかあるが、逆にいうとそれしかない。世界中にコンピュータを作っている会社はごまんとあるのにもかかわらず、だ。それは、疎結合なシステムというのを真っ当に組み上げようとするだけでかなりのハードルがあるから、ということができる。
今日、CPUの演算性能よりも、メモリの速度というのは圧倒的に遅くなっている。この件については、ここで俺があれこれと言葉を重ねるよりも、すでに様々な場所で様々に語られているのだから、そちらを参照してほしい。

http://news.mynavi.jp/series/next_sc/014/

CPUの隣ぐらいにあるメモリですら遅いと言っているのだから、そこから内部バスを通ってPCIeを通ってInfinibandを通って隣のノードに行くのは、人類が火星に旅行するぐらいの距離感である(要出典)
そこが遅ければ、本来の演算器が持つ性能を発揮できないスパコンになってしまう。千台の端末を千台動作させるのではなく、千台の端末を一台として動作させるのである。これはプログラムを書く側もさることながら、システムとしてもまともにサポートしてくれないと非常に困難だ。それゆえ、スパコンを設計する人はスーパーコンピュータアーキテクトと呼ばれる。
ノウハウというのは、だいたいこのベンダーが抱えて持っているものだ。まともに使い物になるスパコン、というのは、このアーキテクト、そしてそれを支えるベンダーの人々の努力によって構築されていると言える。

だからこの人の見ている部分というのは、全くレイヤーが別の箇所なのである。エンジンだけ作ってもレースでは勝てねえ。きちんと車を作らねばな。

「科学技術の真の発展」なるものは、こういう横槍を入れないことでのみ達成できると思うが、それはさておき。
ポスト京で使われるARMのCPUがどういったもので、既存技術とのシナジーはどこにあるのか、という議論は、すでに富士通が出したホワイトペーパーで一定の解は示されている。

http://www.fujitsu.com/jp/documents/products/computing/servers/unix/sparc/downloads/documents/US41880316_JA.PDF

読みねえ。
SPARCとARMでマイクロアーキテクチャ(ハードウェアの実装)を共通にするとあるが、色々な宗教的対立(笑)はあるにはあるのだが、マイクロアーキテクチャというのは突き詰めると概ね似てくるもんである。だから大筋において心配はないと考えられるだろう。
この人が一番引っかかっているだろうSVEのライセンスについてだが、ここは結構フクザツで難しい。俺の理解というか、俺が書いていることも、外野から得られる情報だけなので、真実かどうかは不明だ。

ARMにはいくつかのライセンス体系がある。
https://www.arm.com/ja/products/buying-guide/licensing/index.php
わかりやすくいうと、「ARMのCPUをそのまま製造する権利」と、「ARMのCPUを設計・製造する権利」の二つにわかれている、というようなものだ。
ここでまた色々とフクザツな話が出てきて切ないのだが、CPUというのは大きく分けて二つのアーキテクチャと呼ばれるものを持っている。先ほど何一つ説明なく使ったマイクロアーキテクチャというものと、命令セットアーキテクチャというものだ。
命令セットアーキテクチャというのは、CPUの命令について定義したものでCPUがもつ演算器をどのように稼働させるかを記述している。詳しくはwikipedia参照のこと。
https://ja.wikipedia.org/wiki/命令セット

マイクロアーキテクチャというのは、その命令セットアーキテクチャに対応するハードウェアの実装についてを記述したものだ。同じく詳細はwikipediaを見て欲しい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/マイクロアーキテクチャ

ARMの場合、前者の権利は、ARMが設計したCPUを自分の製品に組み込んで使う、という使い方になる。スマホとかで、ARM Cortex A-xxという表記をみることは多いだろうが、これは前者のライセンスによって製造された製品と考えていい(とおもう)。この時、Cortex A-xxといったマイクロアーキテクチャを、リファレンスデザインと呼ぶ。ARMが作った、「うちの命令セットはこういう風に実装してくださいね」というやつを使っている、という意味だ。
一方後者の場合、自分たちでマイクロアーキテクチャも設計する権利を得る。拡張してもいいよ、という話だ。だがここでARMのえげつなさというか、なんというか…ARMは独自拡張を一切禁止している。それゆえ、くわえた拡張は、すべてARMの仕様に組み込まれてしまう。
まぁそれは仕方がないといえばない。それはそういうライセンスなのだから、気に入らなければ使わなければいいというただそれだけの話だ。
ただ、ここに一つ落とし穴があって、拡張部分については、仕様として取り込まれる部分と、実装として各ベンダーが作る部分がある、ということだ。
つまり、SVEはARMの仕様に取り込まれるが、かと言って、それを誰しもが使えるわけではないということ。命令セットアーキテクチャは定義されたが、マイクロアーキテクチャについては、ARMが作ってくれるのを待つ他ない、というのがSVEを取り巻く現状だ。
そしてARMは今のところ、SVEのリファレンスデザインを提供する気がない。(要出典)
……まぁ、少なくともSC16の時点では提供する気はないみたいなこと言ってたから、富士通がんばれー。
あと、BroadcomもARMv8のCPUの設計を行っていて、SVEを採用するとかいう噂が流れていたが、残念ながら終了したそうで、ますます富士通以外は誰もやっていないのであった。
https://www.theregister.co.uk/2016/12/07/broadcom_arm_processor_vulcan/
あと1社ぐらいあったっけ?覚えてない。



これについてはもはや妄言である。だって作ってるの富士通だし。
PEZYやエクサスケーラーはポスト京には1bitも関与していないのだが…してないよね?


あとは極め付け。


もはや後半はなにがいいたいのかわからないが、TSUBAMEを肯定しつつ、返す刀で国産(ARMの買収によって図らずもこの言葉が言えるようになってしまったw) スパコンであるところのポスト京をDISるというのは、さすがに高度すぎるギャグだ。
だってTSUBAMEは作ってるのHPEだし、中身はIntel + NVIDIA のP100である。ノウハウの蓄積は公的部門になされるもクソも、最初から最後まで徹頭徹尾の外資系である。どこに蓄積できると言うのか。

まぁ、富士通がARMを採用したと言うのは、自分がもってるSPARCアーキテクチャが寿命ですーーーって言ってるのと同じなのではあるけれども。

ただまぁ、

だけは死ぬほど正しいと思うので、世の中もっと給料上がるべきだと思います(こなみかん


0217 10:09追記

PEZYとかはヘリコプターマネーによって実現されているらしく、エクサスケールの少女はそのプロパガンダ小説であり、背後にいるのは自民党内の一派であるというのがこの人の主張だが、そんなもんがあるというのなら見せてもらいたいもんである。

こういう手合いはもはや結論ありきで話してるので、「ヘリマネは危険」からの、「人工知能バブルで金が流入している」「スパコンはヘリマネで作られる!」という論法なのだと思う。
ケーザイについては勝手に持論述べててくれと思うが、技術に金を投資することさえ出来なくなるのならどの道滅ぶんだからさっさとヘリマネでもなんでもして滅べばいいと思う。